【インタビュー】大阪刀根山医療センター 竹内幸康 先生

(取材日:2024年12月18日)


阪急宝塚線「蛍池駅」から徒歩5分、中国自動車道「中国池田IC」から車で10分以内、大阪国際空港(伊丹空港)からもほど近い場所にある、独立行政法人国立病院機構「大阪刀根山医療センター」。日本で最初の「公立の呼吸器専門施設」として1917年に創立されて以来、1980年代から40年以上にわたり、6,000例以上、毎年200〜300例の肺がん診療に携わる、北摂エリア随一の実績を誇る医療センターだ。2010年には、これまでの診断・治療成績が高く評価され、大阪府から「がん診療拠点病院(肺がん)」の指定も受けている。

医療カルチャー発信メディア「エムアンド」では今回、同病院の副院長であり、2023年1月より同病院に設置された「肺がんセンター」を牽引するセンター長の竹内幸康先生を取材。肺がん患者と向き合う上で大切にしていることや、医師としてのやりがい、人材育成や同センターの今後の展望などについて、話を聞いた。

「肺がん診療の新しい枠組み」として、各部門が有機的な繋がりを持って患者様に適切な治療を行なっていく。

−−大阪刀根山医療センター内に開設された「肺がんセンター」について、まずはその概要からお教えいただけますか。


竹内先生:「肺がんセンター」は2023年1月に発足した、「肺がん診療の新しい枠組み」です。肺がんに関わる様々な治療やケアを行っていく上で、各セクションの横の繋がりを重視して発展させた取り組みです。イメージとしては、患者様を取り囲むように様々な部門が有機的に繋がって、それぞれの部門の矢印が患者様に向かうような図式となっています。肺がんの診療は、近年急速に進歩して複雑化しています。放射線診断、病理診断、遺伝子診断、薬物治療、外科治療、放射線科治療、がん免疫治療、緩和医療など、多岐に渡るわけですね。そんな中で当センターでは、内科、外科、放射線科、麻酔科、病理診断などの専門医、がん専門の薬剤師、がん化学療法、緩和ケア、がん性疼痛管理の認定看護師など、各分野のエキスパートが在籍し、活躍しています。そういった新しい枠組みで肺がんの患者様を適切に治療していくというのが、当センターの概略です。

−−ひと言で肺がんといいましても、いろんな種類やステージがあると思うのですが、こちらのセンターにはどういったタイミングで来られる方が多いのでしょうか。

竹内先生:肺がん検診や人間ドックでがんが発見される患者様が多いですね。また、もともと別の疾患で他の病院に罹っていた患者様が、肺に影が見つかって、病院またはクリニックから当センターを紹介されるとか、そういったケースが多いです。

−−その時点では、患者様はあまり自覚症状がない?

竹内先生:自覚症状がない方が多いですね。私の場合は外科部門ですので、私が直接診察する対象になっているのは、症状のない人がほとんどですね。しかし、呼吸器腫瘍内科の方では、例えば、咳嗽(がいそう)やら血痰(けったん)やら、そういった症状があって、その治療のために当センターに来られるというケースもあります。

最新で最先端の治療が必ずしも患者様にとってベストとは限らない。だからこそ、患者様と一緒に考えながら治療を進めていく。

−−竹内先生が肺がん患者様と向き合う上で、気をつけられていることや、大切にされていることはありますか。

竹内先生:当病院もそうですし、私もこれまでに専門的な外科治療、手術治療の実績を積んできたわけですから、常に最先端なことをやっているという、どこかトップランナーのような気持ちでいた時期も正直あったんですね。でも実は、最新で最先端の治療が必ずしも患者様にとってベストとは限らないんじゃないかと思わせられた経験もあって。今は、患者様の気持ちを第一に考えて、満足してもらえる、あるいは患者様の希望を叶えられるような手術を提案して、患者様と一緒に考えながら治療を進めていくというのがベストなんじゃないかなって思っています。

−−先生がそう思われるようになったきっかけというのは?

竹内先生:もう少し私が若かった頃の患者様で、割とご年配の男性の肺がん患者様だったのですが、その人がアマチュアだけど非常に歌が好きでね。CDのレコーディングを控えていたのですが、そのタイミングで肺がんが見つかって、私が手術を担当することになったんです。外科医としては、肺をそれなりに大きく摘出して根治を目指したいと考えていたんですけど、その患者様は「少しでも声量が落ちるのがイヤだ」と。その思いが非常に強かったんですね。それで、患者様と話し合った結果、手術はするけれど切除は最小限に留めておこうとなりました。もしそれで再発した場合は、そのときに治療を考えましょうと。私は、実はあまり納得していなかったんだけど(笑)、結局そういう治療を行ったんです。その後、CDはうまく制作ができて、大変満足されて、私の元にそのCDも送ってきてくれたんだけど、残念ながらその後がんが再発して、最終的にはお亡くなりになられたのですが、亡くなった後に、残された奥様からお手紙をいただきまして。あの時、私に手術をしてもらって非常にうれしかったと。念願のCDを出すこともできて、夫も満足して、喜んでおりましたというお手紙をいただいて。そのときに、外科医が勝手に「一番良い」と思っている手術が、必ずしも患者様にとって良い手術とは限らないんだなっていうのは思いましたね。だから今は、外科医が理想の手術をするという考えは、あまりないですかね。もちろん提案はするけれども、それはあくまで選択肢の1つで、患者様が本当に求めるものは何かというのと、それをきちんと聞き出さないと満足してもらえる治療にはならないと思っています。その奥様からは、今でも毎年年賀状をいただいていますが、あのときの経験は自分としては大きかったですね。

「治療の真ん中には患者様がいる」ということを忘れないように心がけていますし、そういうふうにみんなの意識も変わってくれるといいんですけどね(笑)。

−−こちらのセンターは規模も大きいですし、総合病院あるあるじゃないですけど、大きな病院で患者様が多くて、先生方も常にお忙しそうで、そんな中で自分の思いなんてなかなか聞いてもらえないんじゃないかなと思っていたのですが、竹内先生の今のお話聞いていると、すみません、それは勝手な偏見だったなと(笑)、今それをすごく感じています。


竹内先生:そういうイメージというのは、実は私もこの病院に17年ぐらい前に来たときには、確かにちょっとあって。専門性を強く打ち出して、「自分たちの治療は最高や」と自負しながらも、患者様との距離が遠いというか、そんな空気は確かにありましたね。

−−それは竹内先生だけでなく、周りの先生方も含めて?

竹内先生:そうですね、患者様サイドに立ったらきっとそういうふうに見えているんじゃないかなというのはありましたね。でも、時代の変化もあって、治療は医師が主導してするものではなく、あくまで中心は患者様であると今は考えます。そしてその周りの医師やコメディカル、看護師やリハビリスタッフ、ソーシャルワーカー、臨床心理士などの方々の力がないと、患者様が満足する治療ができないんじゃないかなと思いますね。ですから常に、「治療の真ん中には患者様がいる」ということを忘れないように心がけていますし、そういうふうにみんなの意識も変わってくれるといいんですけどね(笑)。

−−そこは竹内先生が肺がんセンター長として旗を振っていかないといけないところですね(笑)。


竹内先生:そうですね、役割としては、決して私たちの押し付けにならないように、いろんなところに目配せして、組織として柔軟に対応し、各部門の垣根を取り払ってシームレスに治療を続けていきたいですね。それが理想ですね。

−−竹内先生の中で、今の肺がんセンターが抱える課題というのはありますか。こういうふうにしていきたいなぁとか。

竹内先生:それは、実はですね、いろんな部門を結集して「肺がんセンター」にしたのですが、それは大きな枠組みとして設定したもので、実際「どこがセンターやねん?」というか、センターとして1本立ちしていない部分があるかなと正直思っています。将来的には、例えばクリニックの先生方が当病院に紹介するときに、直接「肺がんセンター宛」と紹介をしてもらって、肺がんセンターにきたら内科も外科もなくて、窓口として1つにできたらいいかなぁというのはありますね。そのハードルはまだ高いし、なんせ建物ももう、古いままですからね(笑)。でもこのままの建物で今後もやっていく予定なので、その中で、「肺がんセンター」というものを、もっとわかりやすくするということが、今後の課題です。

人を育てるやりがいというのが実は今は、年齢的にもあるかもしれないなぁ。そうやって優秀な人材を育てないと、いつまでたっても自分がやめられない(笑)。

−−竹内先生が、医師として「やりがい」を感じるのは、どういう瞬間ですか。


竹内先生:若い頃はね、あまり人がやらないような難しい手術をやったときに、やりがいを感じていた時期もあったんですけど、今はもう、それで感じるやりがいは、本当のやりがいではないなと。それは例えると、冒険家が山に登って、やりがいがあったというのと、医師が難しい手術をやってやりがいがあったというのは、だいぶ違うんじゃないかなと思うんです。私たちが相手にしているのは山じゃない。患者様ですからね。患者様が望んだ難しい手術を執刀してそれがうまくいけば、やりがいはあるのかもしれないけど。

−−なるほど。でも竹内先生が若い頃に感じていたように、今の若い先生で、同じように難しい手術に対してやりがいを感じている方もいらっしゃるんじゃないですか。そういった方と先生が向き合う上で意識されていることはありますか。

竹内先生:患者様に寄り添う治療ができるようなドクターになってほしいし、外科医になってほしいと思っているので、私が今まで重ねてきた経験は、うまくいかなかったことも含めて洗いざらい伝えるようにはしていますね。「そこはそうするよりも、こういうふうにした方がうまくいくよ」というふうにね。昔はね、「経験で学ぶ」というふうに言っていたけど、今はそうではなく、できるだけストレートに、最短距離で言うようにしています。数学の難問を、答えを出すために何日もかけるというのは、医療ではダメだと思っています。最短距離で最善の結果を出すような導きをしていかないといけないですね。「自分でよく考えてちゃんとやれよ」っていうだけでは、人は育たないですよね。まぁ、僕たちの時代はそうやって言われてきましたけどね(笑)。時代は変わりましたから。だから当病院で研修を受けたドクターは、早く一人前になるんじゃないかなと、僕的にはそう思ってる(笑)。あ、それがひょっとしたら、僕のやりがいかもしれないね(笑)。

−−先生のイズムが宿った医師をこちらの病院から輩出していくと。先生もお立場的には、後に続く優秀な医師を育てていくという使命がおありですよね。


竹内先生:うん、治療とかのやりがいというよりは、人を育てるやりがいというのが実は今は、年齢的にもあるかもしれないなぁ。そうやって優秀な人材を育てないと、いつまでたっても自分がやめられない(笑)。いつやめてもいいように部下を育てるというのが、その職場の長たる者の使命です(笑)。実は以前、2ヶ月ぐらい病気で入院したことがあるのですが、その当時もバリバリと手術をしていましたし、他の医師への指導もしていたので、2ヶ月も抜けたら大変なことになるなと実感して。そのときに私がやったことが、熱にうなされながら、手術の手順書というかね、マニュアルを作ったんですよね、病室で(笑)。そのときは手書きだったんですけど、それが自分の不在中に意外と役に立って、私が職場復帰した後も、その手順書をたたき台にしてね、呼吸器外科の新しい先生が来る度に、こんなふうに手術するんだよというのを絵で見てわかるようにして。それを発展させてPDFにしてクラウド上で共有したり、PDFの中に手術の動画も入れ込んでよりわかりやすくしたりして。そういったやり方も取り入れて教育面も進歩させていくというのは大切ですよね。

医療を行う者の独りよがりには決してならないで、患者様に寄り添った医療をちゃんと、きっちり提供していきたい。

−−では最後に、肺がんセンター長として、このセンターにかける竹内先生の思いをお聞かせください。

竹内先生:やっぱり当センターにきた肺がん患者様の、「ああ、もっとこうしたらよかった」とか、「あのときもうちょっと説明を詳しく聞いておけば、こんな治療はしなかったのに」っていう類の後悔をゼロにしたいかな。医療を行う者の独りよがりには決してならないで、患者様に寄り添った医療をちゃんと、きっちり提供していくこと。そして最後に、「先生に診てもらってよかった」、「大阪刀根山医療センターで治療を受けてよかった」、そういうふうに思っていただけるような環境を作っていきたいかなぁ。10年以上前のことだけど、肺がんの手術をして、でも再発して亡くなられた患者様がいて、私も一緒に看取ってご家族の方とお見送りのところまできたときに、その患者の奥様から最後にね、「先生にちゃんと診ていただいて本当に良かった。主人も満足でした」っておっしゃっていただいて。そのときは本当に感無量になって。そんなふうに思ってもらえるような治療を提供していきたいし、肺がんセンターがその場としてふさわしくなるように努力していきたいなと思います。

−−今回の取材では、竹内先生の「治療の真ん中には患者様がいる」というお言葉が、特に印象的でした。


竹内先生:多様性の時代ですから、患者様も1人1人違いますからね、求めるものも、心理的背景も、身体的背景、社会的背景、みんな違うから。それなのに同じことをやって全部それがベストかというと、そうとは限らないでしょう? 患者様の年齢や性別によってニーズも違いますからね。ある若い女性患者の場合、水着を着たときにここからここまでは水着で傷が隠れるから、傷はその範囲に収めてくれっていう方もいましたからね(笑)。もちろんそれにお応えして満足してもらえるように手術しましたけど。やっぱりニーズって人それぞれですから。患者様のお気持ちや思いに、これからも寄り添っていきたいですね。

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<プロフィール>

竹内幸康
◾️独立行政法人国立病院機構 大阪刀根山医療センター
副院長/呼吸器外科部長/臨床検査部長/肺がんセンター長
◾️学会・専門医等
外科学会指導医/外科専門医/胸部外科学会評議員/呼吸器外科学会評議員/呼吸器外科専門医/がん治療認定医/大阪大学臨床教授

<私のハマりもの>


高校と大学時代にサッカー部に所属して、ゴールキーパーをしていたのですが、今はサッカー観戦が趣味です。Jリーグのガンバ大阪のファンで、休日はサッカーの試合を観て応援をしています。吹田市のパナソニックスタジアムの年間シートを購入しており、ホームの19試合に加えて、カップ戦など、年間20試合以上を夫婦で観に行っています。

<病院情報>

名称独立行政法人国立病院機構 大阪刀根山医療センター
所在地〒560-8552 大阪府豊中市刀根山5丁目1番1号
電話番号06-6853-2001
FAX番号06-6853-3127
病床数410床(内訳)一般410床(筋ジス106床含む)
標榜診療科(21診療科) 内科、(循環器内科)、(消化器内科)、脳神経内科、呼吸器内科、呼吸器腫瘍内科、呼吸器緩和ケア内科、小児神経内科、外科、整形外科、リウマチ科、呼吸器外科、(皮膚科)、(耳鼻いんこう科)、(眼科)、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、(歯科)、病理診断科、漢方・ペインクリニック内科 ※小児神経内科は筋ジストロフィーの患者の治療を対象としている。 ※( )内は入院患者の治療を対象としている。
URLhttps://toneyama.hosp.go.jp/
https://toneyama.hosp.go.jp/cancer/index.html(肺がんセンター)

<肺がんセンター紹介動画>

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